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山田祥平のPCこだわりレポート LaVie C
  Series 2 新「LaVie C」にこめた想い
   
   オールインワンノートパソコンのベストセラー、LaVie Cが、大きな飛躍を遂げてメジャーモデルチェンジした。しっとりしたピアノ調のボディ塗装、皮の感触を取り入れたパームレストなど、デザインを一新し、上下左右170度の広視野角を実現した高解像度液晶を採用するなど、機能的な満足度はかなり高いものになっている。その開発に際して、陣頭指揮をとったのがNECカスタムテクニカノートPC事業部商品開発部部長小野寺忠司だ。

 小野寺は、初代LaVie NX以来、ずっとノートパソコンに関わってきた筋金入りの開発者だ。もちろん、その先代となる98シリーズのころから設計部門で数々のノートパソコンを作ってきた。コードネーム「花子」で呼ばれてきたPC-98LT、すなわち、1986年に発売されたNEC初のノートパソコンにもタッチしていたといえば、そのキャリアの長さがわかる。
 


ノートパソコン一筋の開発者が見た市場

  NECカスタムテクニカノートPC事業部商品開発部部長 小野寺忠司 初代のLaVie Cは、オールインワンパソコンであり、Creatorの頭文字「C」をその名の由来とする、NECのコア機種というのが基本コンセプトだった。
 小野寺は、そのコア機種に大きくメスを入れるにあたり、市場の状況を分析する。

「今、パソコンは、買い替えと買い増しの方向にいっているんですね。70%近くがそうだという調査もあります。だから、今まで以上にこだわった製品を出していかなければならないんですよ。パソコンも一巡してしまうと、二極分化するんですね。そう、価格指向のお客さんと、ハイエンドのお客さんです。NECとしては、ハイエンドのお客さんにも、満足してもらえる製品を出さなければなりません」

 小野寺は、今回のLaVie Cに関して、イメージと技術の両面から、いろいろなところで冒険したという。まず従来の筐体デザインを一新し、少しでも高級感を出すために工夫をこらした。そして「コアの発信」という思想を徹底した。「NECのコア」、「デザインのコア」である。

「パームレストは、従来と違った触感を出したかったんです。本当は本皮を使いたかったんですけどね。でも、接着剤の熱による経年変化が予想されて、それは断念しました。そこで、ゴムを少し加工して、似た感触を作ってみたんです。スライドパッドの美しさにもこだわりましたね。それに、LCDの上部に無線LAN用のアンテナを配置したんです。測定結果のチャートを見ていただけるとわかるんですが、100メートルの距離で、11Mbpsで通信できるんです。これは、競合他社製品と比べてもダントツですよ」
 

ワイヤレスLANアンテナ内蔵 レザータッチのパームレスト


「前村さん、こんなパソコンが欲しいんだ」

  「前村さん、こんなパソコンが欲しいんだ」 小野寺が絶大なる信頼を寄せる職人がいる。工業デザイナーの前村だ。

「こういうコンセプトでやってくれよ、前村さんっていうと、その通りのものを考えてくれるんです。クリエイティブセンターとなるようなイメージを出してくれ、中に入るものは、Pentium(R) 4だよ、高性能のラップトップだからね。LCDはUXGA、黒を鮮明に出すLCDを使うよ。前のラヴィは機械的だったから、暖かみを出したいんだ…。このくらいのことを言うだけでOKなんですよ。次の日にはデザイン画ができてきます。彼とは、公私ともに、普段からコミュニケーションを密にしていますからね、きっと息が合うんでしょう。イメージはすぐに伝わります。彼の仕事は超一流だと思いますよ」

 小野寺は、先にデザインありきで、そこに技術がモノを入れていくのだと考えている。前村は、これにしましょうといってハードモックを持ってくる。そこからは、1ミリも分厚くすることはできない。それが「絶対」なのだ。前村も無理を強いるようなデザインはしない。わかった上での強要だ。

 新LaVie Cも、薄さのあまり、端子部分の回りを鉄板で補強するなどの工夫が必要だった。また、Pentium(R) 4ならではの、熱設計の部分でも葛藤が続いた。通常、パソコンの設計では、デザインがある程度決まった時点で熱分布のシミュレーションをかける。決まったデザインの中で、そこにどうやってパーツをレイアウトしていくかを決めていくわけだ。今回は、冷却ファンを2基搭載することにした。プロセッサとグラフィックスチップ系という二つの熱源のためだが、本当はファンをひとつにしたかったと小野寺は振り返る。結局2基搭載したが、効率の良い小さいファンを搭載したことで、熱を効率的に下げながら従来並の静けさも併せて実現している。
 


開発サイドと販売サイドの意地でできるパソコン

  「しゃれた感じにしようと塗装の方向性を決めたはいいものの、表面処理がつらかったですね。2回塗装しなくちゃならないんです。メタリックカラーを一回塗装して、そのあとに、透明なクリアコートをかけているんですよ。前村の意図した深みのある色を出すために、色見本は2〜3種類出しました。それに、金型をかなりきれいに削らなければなりません。工場でもキズがつきやすいんですね。だからシートを貼ってアセンブリの作業をしています。他社製品では、よく似た発想のパソコンが以前にありましたが、これは、真っ黒じゃありませんから、指紋もめだちませんよ」

 現在、NECのパソコンは、NECカスタマックスが企画し、それをNECカスタムテクニカが製品にするという役割分担で開発されている。小野寺にいわせると、これは、カスタマックスとカスタムテクニカの良い意味での意地のせめぎあいなのだということらしい。

「テクニカは、製品を作る立場でものをいいます。マックスは企画の立場でものをいいます。我々も、常に想いを持って製品作りに取り組んでいますから、今回は特にテクニカの想いをコンセプトとし、製品提案を行いました。通常は、企画側の了解をとるのに、かなりの時間がかかるものなんですが、議論はあったものの両者の想いが一致し、これでいこうとすっきりいきました。こんなケースを今後も増やしたいと思います。
 プレゼンテーションでは、いかにこだわっているかをアピールしなければなりません。それで多少コストがあがっても仕方がない、高付加価値にシフトしていきたいという意気込みをどう伝えるかなんですよ。いろんな意味で、今までの製品よりもこだわりがありますね」
 


できるまであきらめない

  さて、この男、いったい次は、どんなパソコンを作るのか。 新LaVie Cは、最上位機種でUXGA、中位機種でもSXGA+という高解像度広視野角液晶を採用した。某社からのOEM製品で、すでに同種の液晶を搭載した製品は世に出ているが、小野寺には、昨年時点では、どうしてもデバイス本来の品質にゴーサインを出せなかったのだ。

「本当は最初にやりたかったんですよ。でも、昨年の時点では、四隅に白っぽい部分が出てしまっていたんです。そんなもの許せるはずがない。バックライトのインバーターから導光板を通じて光を分散させるんですが、光を均一に分散する技術が確立されていなかったんですね。それが解決できたのが、2月くらいだったかな。そのトラブルさえなければ、2月に発売された旧LaVie Cに搭載できていたかもしれません」

 小野寺の工夫とこだわりは、ACアダプタにさえ立ち入る。

「Pentium(R) 4パソコンにしては、ACアダプタが小さいでしょう。従来の60W品の技術にこだわったんです。本来は70Wから80W必要なんですよ。でもね、ピークだけを工夫すればなんとかなることがわかったんです。プロセッサが最大電力を食っているときに、充電をやめるんです。そういう回路を組み込みました。そんな瞬間なんて、めったにないので、結果的に充電時間には、影響がないんですよ。足下においたときにごろっと大きいといやじゃないですか、だから、アダプタもスリムにしたかったんです」

 今回、最後まで残った課題は、温度変化を考慮したため、パームレストに皮が使えなかった点だという。ただ、接着剤に関しては、おおよその見通しがついてきたため、次は絶対にできると小野寺は断言する。

 「ああ、疲れた、パソコンでもさわろうかって、そういうイメージでしょうかね。そんなパソコンなかったでしょ?でも、それが究極のあるべきすがたじゃないでしょうかね。暖かみとか、人間性とか…。
 人間性って何だろうって考えるときにね、壊れてもいいじゃないかって考えることもあるんですよ。壊れやすいパソコンを作るという考え方ですね。たとえばガラスのパソコンなんてどうですか。ロウソクを吹き消すと電源が切れるとかね。感性をもっと前進させたようなパソコンをやりたいと思うし、その追求が、我々の道だと信じています。金属もいいんですが、そうじゃないところで、人間的なところを出せないもんでしょうかね」

 「毎日、通勤で渋谷を通るんですよ。必然的に、若い人たちの生態を観察できます。楽しいですよ。毎日が発見ですよ」

 さて、この男、いったい次は、どんなパソコンを作るのか。
 
   
       
       

  ■インタビュアー・プロフィール :山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、成城大学講師。
「やってみよう(日本経済新聞)」、「デジタルワンダーランド(夕刊フジ)」、「プライオリティタグ(ソフトバンク・DOS/Vマガジン)」、「ウィンドウズ調査団(週刊アスキー)」など、パソコン関連の連載記事を各紙誌に精力的に寄稿。「できるシリーズ(インプレス刊)」など単行本も多数。NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。
 

Copyright(C) NEC Corporation, NEC Personal Products,Ltd.


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