121ware 閉じる

山田祥平のPCこだわりレポート .Gateサービス
  Series 4 インターネットへのこだわりから生まれた「ドット・ゲートサービス」
   
   ドット・ゲートサービスは、この5月に発表されたNECパソコンの一部モデルにプリインストールされるホームユーザー向けの統合サーバーアプリケーションだ。ウェブサーバー機能をベースとし、自宅に設置したパソコンに、外部ネットワークからアクセスし、ファイル転送やメールの送受信などができるようにするというものだ。
 こういう説明の仕方をすると難しそうだが、要するに、出先から、iモード携帯電話やパソコンを使って、自宅のパソコンと通信するためのシステムソフトウェアだといえばわかってもらえるだろうか。携帯電話からの参照もサポートするなど、パーソナルユースを強く意識していることがわかる。
 その企画立案から製品化までを担当したのが宮原文之(NECカスタマックス マーケティング本部商品企画部主任)だ。
 


  NECカスタマックス マーケティング本部商品企画部主任 宮原文之「現在は、ADSLのような常時高速インターネット環境が、家庭においても気軽に利用できるようになっています。この、つながりっぱなしの状態を、もっと積極的に利用できないかと考えました。だったら、自宅のパソコンをウェブサーバーにしてしまおうと発想したんです。Windows XPには外部からパソコンを遠隔操作できるリモートデスクトップ機能が用意されていますが、ホームエディションでは使えませんし、外部から参照されているうちは、そのパソコンを他の人が使うことはできませんからね。これでは不便でしょう?
 ドット・ゲートサービスを動かしているパソコンを、他のパソコンからインターネット経由でウェブブラウザを使って呼び出すと、自分宛に届いたメールを読めたり、ファイルをダウンロードしたりすることができるんです。システムの基本的な部分は、ウェブサーバーシステムとして評価の高いApacheを基盤にしています。
 メールに関しては、専用のメールソフトが、指定されたメールサーバーを一定間隔でチェックして、新着メールをダウンロードしておくようになっています。サーバーにメールを残す設定にしておき、他のメールソフトと併用するようにしました。したがって、常用のメールソフトをわざわざ変更していただく必要はありません」

 このシステムを起動しておくと、ユーザーは、外部から自宅のパソコンにアクセスし、そこに置かれたファイルを取り出したりすることができる。アクセスする端末としては、パソコン以外に、iモード携帯電話やポケットPCなどがサポートされるが、ファイル転送に関しては、自宅PC−>外部の片方向だ。双方向転送は、技術的には簡単だが、セキュリティを考えた結果、現時点では、この仕様にしたという。
 外部から、自宅PCにアクセスするには、インターネット側から見た自宅PCのIPアドレスを知る必要がある。しかも、多くの場合、PCは、ブロードバンドルータなどを経由してインターネットに接続されているため、外側から内側へのアクセスには、ちょっとした工夫が必要だ。

「自宅のPCのIPアドレスをメールでとってくる仕組みを考えました。まず、自分のメールアドレス宛に、IP要求用のメールを送ります。そのメールは、ドット・ゲートサービスのシステム(ドット・ゲートシステム)が受信するわけですが、システムはタイトルをチェックして、NEC側で用意したIP通知サーバーにアクセスするんです。サーバーは、アクセスされたIPを調べて、その結果をこのドット・ゲートシステムに戻します。IPアドレス情報を受け取ったドット・ゲートシステムは、そのアドレスを含む自宅パソコンへのURLを、指定されたメールアドレスに送信するようになっています。この方法なら、PCのアドレスがプライベートIPアドレスでも、ルータのWAN側に設定されたグローバルIPアドレスがわかり、メール本文中のリンクをクリックするだけで、自分のパソコンに接続できるんです。
 ADSL環境であれば、かなり長期間、IPアドレスが変わることはないので、この方法で、きちんと実用になりますよ。
 問題は、ルータを利用している場合などですね。設定として、ポートマッピングが必要になる点です。この設定方法については電子マニュアル、オンラインマニュアルで対応しました。できるだけ多くのルータ製品をサポートしていきたいと考えています。将来的にはUPnPを使って、全自動でできるようにしたいと思っています」
 


  今後のインターネット社会は、パソコン同士をダイレクトにつなぐ環境が当たり前になっていくだろうと考えている。 宮原は、今後のインターネット社会は、パソコン同士をダイレクトにつなぐ環境が当たり前になっていくだろうと考えている。ところが、現状では、パソコン側がそれに対応していない。パソコンも常時接続に対応したハードウェアに進化していかなければならないと宮原は考える。

「構想は3年前からですね。ADSLがこれだけ普及したことを機会に、世に出してもらえることになりました。IPアドレスを知る仕組みとしては、ダイナミックDNSを使うという方法も考えたんですよ。メールを使う方法とどちらがいいか、かなり議論しました。ダイナミックDNSは、わかりやすいんですが、どちらかといえば、自分で情報を発信する人のためのものじゃないかと思うんですよ。つまり、用途が違うんです。今回、いちばん考えたのは、ユーザーの情報を守ることです。だから、インターネット的にパブリックな名前空間に登録してしまうというのは、ちょっとためらってしまいました。だから、結局、メールを使うことにしたんです」

 宮原は、以前からNECが提供するインターネットサービスの企画推進に携わってきた。たとえば、1997年ごろには、パソコンのキーボードに装備されたインターネットボタンの企画を成功させている。当時は、インターネットが現在のように浸透しているとはいえず、一般のユーザーは、プロバイダーへの入会から、接続までの煩雑な手続きにとまどいがちだった。インターネットのようにおもしろいものを、普通の人にも何とか簡単に体験してほしいと思った宮原は、キーボードのボタンを押すだけで、インターネットに接続できたらと願いを形にした。それが、この企画だ。

「5時間限定でインターネットを体験できる仕組みのサービスなんです。たぶん、業界初。世界初だったと思います。なんといっても、完全な一発接続を体験できるんですから。パソコンのROMにBIGLOBEのIDとパスワードを暗号化して埋め込んで、ボタンを押せば、それを使ってフリーダイヤルのアクセスポイントに電話をかけ、通知される電話番号の情報などを元に、最寄りのアクセスポイントの電話番号などを調べて、すべての設定を自動的にすませるんですよ。当時は、購入されたユーザーの7割くらいが使用していましたが、今はずいぶん減ってきています」
 


  ドット・ゲートサービスは、まだまだ進化する。 宮原は、もともとパソコンが好きで、10代のころからアルバイトでゲーム機用のソフトウェアの開発などをやっていた。学生時代には、某社において98互換機のBIOS開発にも関わっていたというから驚く。当時からNECパソコンのファンだった宮原は、必然的にNECに入社し、運良くパソコンビジネスに関われる部署に配属された。

「インターネットにアクセスするためのパソコンが、携帯電話にとってかわられてしまうんじゃないかという危惧がありますよね。でも、そうじゃない。きっと両方が共存していくはずだと思うんです。しかも、携帯電話でパソコンにアクセスできれば、どんなに便利だろうって考えたんですよ。最初はね、ウエイクオンLANで、寝ているパソコンを起こすイメージを考えていました。
 実は、この先駆けになるサービスとして、iモードによるSmartVisionへのテレビ録画サービスがあったんです。これは、ISDNのDチャンネルを使って自宅のパソコンにアクセスするもので、これも世界初だったと思います」

「インターネットはまだ原始時代じゃないかと思うんですよ。それが、ブロードバンド常時接続でようやく普通になるんです。まだ、大多数のユーザーは、ダイヤルアップでインターネットを使っています。カセットテープでプログラムを読み書きしていた時代のパソコンのようなものですね、って、どれだけの人が、こんな体験があるのかわかりませんけど(笑)。ただ、まだまだ使い勝手はよくなっていくでしょう。だから、新しい提案をどんどんしていけるはずなんです」

 ドット・ゲートサービスは、まだまだ進化する。インターネットだけでは何もできない。パソコンだけでは何もできない。宮原はそのことをよく知っている。
 
   
       
       

  ■インタビュアー・プロフィール :山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、成城大学講師。
「やってみよう(日本経済新聞)」、デジタルワンダーランド(夕刊フジ)」、「プライオリティタグ(ソフトバンク・DOS/Vマガジン)」、「ウィンドウズ調査団(週刊アスキー)」など、パソコン関連の連載記事を各紙誌に精力的に寄稿。「できるシリーズ(インプレス刊)」など単行本も多数。NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。
 

Copyright(C) NEC Corporation, NEC Personal Products,Ltd.


NEC Copyright(C) NEC Corporation, NEC Personal Products,Ltd.