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山田祥平のPCこだわりレポート ブロードバンドルータ「AtermWARPSTAR」
  Series 6 ブロードバンドルータ「AtermWARPSTAR」のこだわり
   
   ワイヤレスブロードバンドルータ「WARPSTAR Δ」(ワープスターデルタ)シリーズの最高峰、「AtermWA7500H」が発表された。本体実効スループット50Mbps以上、そして、IEEE802.11a規格準拠の54Mbpsワイヤレス通信に対応した製品だ。まさに、WARPSTARの集大成ともいえる決定版だ。  


これからのゲートウェイは無線が必須

  NECアクセステクニカ パーソナルコミュニケーション第三技術部 小笠原弘道 小笠原弘道(NECアクセステクニカ パーソナルコミュニケーション第三技術部)は、WARPSTARのトータルマネジメントを担当する立場にいる。現在、ルータ製品は、すべてがNEC内部で開発されているが、ISDN用ターミナルアダプタで、国内70〜75%という驚異的なシェアを誇ったAtermを筆頭に、小笠原は、ずっと関連製品を手がけてきた。

「2000年ごろから、世の中にブロードバンドが浸透しつつあって、われわれの事業自体もルータ製品にシフトしてきています。現状の出荷規模では、ターミナルアダプタよりも、ルータの方がメインですね。無線機能のついた商品として、2000年の11月に初代のWARPSTARを出荷しています。WARPSTARは、Atermのサブブランドなんですが、無線で、かつ高速、つまり、無線でとんでいくような快適さをイメージしたものです」

 小笠原は83年入社で、当初はビジネスFAX関連の開発部署に配属されている。97年にはホームネットワーク商品の新しい製品として、PHS内蔵のターミナルアダプタを企画した。TA、ルータ関連のビジネスを担当するようになったのはそれ以降だ。
 かつてのFAXは企業向けであり、開発期間も長かった。そして、商品のライフも長かった。それに対してTAやルータは、コンシューマー製品だ。製品サイクルが早く、コストも厳しい。小笠原は、現在の部署に配属されたとき、ちょっとしたカルチャーショックを受けたという。ただ、自分がユーザーでもあり、作ったものへのこだわりと、できあがったものへの評価が直接得られるという点ではやりがいのある製品だと思っている。

「これからのゲートウェイ商品は、日本国内の場合、無線にならないといけないと思っていました。最初に企画した製品は、PHS内蔵のTAです。AtermのIWシリーズは、業界初の64Kbps高速無線でPCと接続できるもので、ほぼ国内の市場を独占してしまいました」
 


バージョンアップで進化を提供

   小笠原のこだわりは、それに続くWARPSTARにも注ぎ込まれていく。

「個人的にこだわったのは、ワイヤレスの性能と品質ですね。WARPSTARでは、無線の飛距離、指向性、安定度はかなりすぐれているはずで、性能的にはどこにも負けないと思っています。
 その一方で、Atermとして、TAを開発しているころから、ルータは難しいというイメージが強く、買う側にも売る側にもそういう覚悟がありました。でも、いつまでもそうじゃいけない。そこで、われわれは、らくらくアシスタントというソフトウェアを考えて、インストールから導入までを簡単にできるようにしたんです。今までは、パソコンをインターネットにつなぐだけでしたが、ネットワークを使ったゲーム機も出てきています。となると、フィルタの設定なども、どうやっていいかわかりません。それを、なんとか簡単にできるような環境を提供しようとしたんです。


■「クイック設定Web」画面 ■「らくらくアシスタント」画面
「クイック設定Web」画面 「らくらくアシスタント」画面
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 もちろん、設定しなければならない内容や機能は、どんどん変わっていきます。ですから、ユーティリティやファームウェアをバージョンアップして対応していきます。平均でも2ヶ月に一度はバージョンアップしているはずですよ。UPnPへの対応などもその一環です。
 最新の製品に対してだけではなく、古いものをふくめて最新の機能をすべての製品に提供するように努力しているつもりです。それに、バージョンアップに際しては、パフォーマンスのチューニングを極めることで、それぞれのモデルのプロセッサパワーを最大限に生かすようにしていますから、Δ(デルタ)シリーズでスループット15Mbpsを実現した際に、古い機種のΣ(シグマ)シリーズでも5Mbpsから7Mbpsへとアップしました。今回の新製品は、いっきに3倍以上高速化してほとんどワイヤースピードに近い性能になっています」

 ルータは通信機器であり、製品出荷開始初期は、速度よりも、信頼性がもっとも重要な要素として優先される。速度が犠牲になってもバグを出さないようにファームウェアがプログラムされる。だが、いったん安定すれば、ボトルネックになっている部分をチューニングする余地が生まれる。バージョンアップで高速化するのには、こんな背景があったわけだ。ISDN程度の回線速度では、スループットは気にしなくてよかった。だが、このブロードバンドの時代に、そんなことをいってはいられない。
 


スマートなフォルムを支える実装技術

  コンパクトでデザイン的にも優れたWARPSTARでは、そのルックスさえも技術によって支えられている。 コンパクトでデザイン的にも優れたWARPSTARでは、そのルックスさえも技術によって支えられている。

「縦型でスマート、パソコンの横においてもでしゃばらない。これが基本的なコンセプトですね。本来、通信機器は黒子です。だから、見えないところにあればいいと思っていたんです。究極はそうだとしても、現状では、こういった機械も、リビングや部屋においたときに、魅力がないよりはあったほうがいい。リビングで使うお客さんがいるんですから、目に見えるところに置かれやすいんです。それでも違和感がなく、洗練されたフォルムでありたいと思います」

 NECの製品として、シェア70%を獲得するようなものは、コンシューマー製品としてはかなり珍しいという。TAはノウハウがないと作れないそうだが、ルータに関していえば、ネットワークコントローラを作っているチップベンダーが、ルータ機能も含めて提供できる環境が用意されているため、乱暴な話、誰でも作ることができるらしい。必然的に、台湾ベンダなどが出してくる製品と競争せざるを得ず、強みを出すとすると、使いやすさやIPv6対応、セキュリティなどの最新機能で勝負していくことになる。そして、このフォルム。差別化には、様々なアプローチがある。
 Atermは、プロセッサもOSもすべてNECの自社開発だ。OEMに依存すると、そこからの供給に左右されて、競合他社製品と同等以上の製品ができにくい。汎用の石をかき集めているわけではないため、部品点数やコスト的にも最適化にも有利だという。

「WARPSTARでは、電源内蔵にこだわりました。この薄さの中に無線も電源も内蔵するんです。WDR85FHでは、さらに、ADSLモデムも内蔵です。これだけ入ってこのサイズですよ。
 ただ、薄くしようとすると、どうしても発熱が大きくなり、熱設計が難しくなります。ですから、孔をあけるんですが、孔をあけすぎると今度は静電気に弱くなります。人がさわるだけで中の電気部品にスパークが飛んじゃったら大変です。
 機構設計が、空気の対流をシミュレーションして効率的に逃がす方法を考え、極限まで実装を苦労して作り込んでいくんです。だから、決して、無理をしすぎているわけではありません。構造的な工夫をして、無線カードを中に入れても大丈夫なように設計されているんです。
 従来の製品はEMI対策に手こずりましたね。無線性能に影響しないように回路のノイズ対策でシールドを使わないようにしているので、中の基板もアンテナ近辺の回路を極力さけるように設計しなければなりません。カードの実装位置も製品を縦置きにしたときに、いちばん頭にくるように配置し、アンテナの最大の特性を出せるようにしてあります。無線カードをカードスロットに装着するという機構にすることで、今、無線はいらないけれど、将来欲しくなるかもしれないという人も、必要に応じて追加することができるようにしてあるんです」


カードスロット

 店頭で見ただけではルータ製品の性能や安定度はわからない。だからこそ、ブランドや、従来製品の実績などがものをいう。WARPSTARは、その点では絶大な支持を得ているはずだと小笠原はいう。

「安定して動くことがまず第一です。そういう意味で、過去の製品の実績はとても大事です。
 あとは、バージョンアップを含めたサポート体制かな。そう、インターネット掲示板なんかでの評価は、けっこう気になりますね。2ちゃんねるなどもちゃんと見ています(笑)。
 実は、いちばん最初の時期のWARPSTARのユーティリティは、機種やOSの制限があったんです。他社のルータは、ブラウザで設定できるので、OSに依存しないで使えます。Linuxユーザーからは、NECは、何も考えていないという強いクレームをいただきました。専用ソフトとブラウザによる設定を、両方サポートするようにしたのはそれからですね。こんな基本的な機器がOSに依存するとはなにごとかってことだったんです。使いやすさを追求した結果としての専用ソフトだったのですが、その時期にルータを使うような層は、パワーユーザーだということを考慮していなかった。だから、こんな批判を浴びたわけです。最初にブラウザ設定に対応したときには、2ちゃんねるでも珍しくほめられたましたよ」

 実は、小笠原の自宅では、まだ、ISDN回線で初代WARPSTARのTAモデル(WL50T)を使っているという。エリア的に、ADSLがまだ利用できず、仕方がないのだそうだ。妻はダイニングテーブルでパソコンを使い、小学校3年生の娘は勉強机などでパソコンを使う。家の中のあちこちを移動するノートパソコンに無線カードは必須だ。ブラウザを開けば勝手にインターネットにつながるのが当たり前の環境、それがパソコンだと家族は思っている。
 ある日、帰宅した妻は、小笠原にたずねた。

「パソコンって、本当は、線をつながないと、インターネットは使えないの?」

 近所のお宅を訪問して、インターネットを見るときにパソコンに通信ケーブルをつないで使っているのを初めて見たらしい。小笠原は、その言葉に、ちょっと幸せな気分になった。
 
   
       
       

  ■インタビュアー・プロフィール :山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、成城大学講師。
「やってみよう(日本経済新聞)」、デジタルワンダーランド(夕刊フジ)」、「プライオリティタグ(ソフトバンク・DOS/Vマガジン)」、「ウィンドウズ調査団(週刊アスキー)」など、パソコン関連の連載記事を各紙誌に精力的に寄稿。「できるシリーズ(インプレス刊)」など単行本も多数。NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。
 

Copyright(C) NEC Corporation, NEC Personal Products,Ltd.


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